上司が答えを持てない時代のコーチング

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かつてのコーチングでは、答えを持っている「上司」から 「部下」へ、「部下」が無事に答えに辿り着くことができるようにアドバイスをするものでした。

「上司」自身が経験して解決したことと同じ問題を 「部下」が抱えるようなケース、もしくは、「上司」 も未経験な問題であったとしても過去の類似ケースを 応用して答えを導けるものがほとんどだったためです。

しかし、変化の激しい時代においてはビジネス上の問題が複雑化し、 「上司」にとっても、その問題に対してどのような対処をしたらよいか 分からないということの方が多くあります。

もはや過去の経験だけでは通用しないため、「上司」に適切な コーチングスキルがなければ相談に来た「部下」と一緒に悩むか、 答えを持っているフリをして妥当かどうか分からないアドバイスをする ことになってしまいます。

では答えはどこにあるのでしょうか。

過去の経験が通用しない時代において、 「上司」のさらに「上司」ということはありません。

少なくとも現場で起きている問題についての答えは現場に近いところにあります。

「上司」が答えを持てない時代のコーチングは、過去の経験にとらわれず、 「部下」に答えを見つけられるようにするアドバイスをしていくものなのです。

答えは作り手から使い手に

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変化の激しい時代において、ビジネス上の問題に対する答えはどこにあるのでしょうか。

結論からいえば、生産者よりは消費者、営業よりは顧客といった「作り手」から「使い手」に答えの在処は移っています。

物は作れば売れるという高度経済成長の真っ只中では、 消費者よりも生産者の論理がまかり通っていましたので、 答えは生産者にありました。

しかし、多種多様なモノが作られ、消費者動向もすぐに変化する 時代では消費者を無視した製造メーカーはもはや存在できません。

同様に、営業においてもノルマを達成するために脈のありそうな 顧客に対して飛び込みで売っていくスタイルよりも、顧客のニーズに マッチする商品やサービスを提供することを中心とした顧客志向型の 営業スタイル(コンサルティング・セールス)が主流になっています。

例えば、パソコンの製造・販売においては、生産者側で決めたスペックの パソコンを製造して販売するのではなく、インターネットを通じて消費者 自身に自分の好みで色やメモリ容量、CPUの種類などを選択してもらい、 それを製造して販売するようなビルド・トゥ・オーダーの仕組みができています。

このように、どのようなものだったら売れるのかといった問題の答えの1つとして、 使い手に全部選んでもらう仕組みを作るという対策までありえるのです。

現実に起きているパワーシフト

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アメリカの未来学者であるアルビン・トフラー氏が、 21世紀には権威(パワー)が移行していくことを指摘し た「パワーシフト」を発表したのは1990年でした。

その後、確実に「パワーシフト」は起きているといえる でしょう。

権威は他の人が持ちえない情報などをもとに発揮されます が、変化の激しい時代では答えを持っている層が作り手か ら使い手にシフトしてきており、それに伴って権威もシフ トしているのです。

消費者動向をマーケティングして製品開発に活用したり、顧客ニーズに 基づく営業や販売方法を提供したりするのはその証拠といえます。

このような事実をふまえると、部下のコーチングにおいて、 ビジネス上発生した問題に対する答えを求める先は自ずと見えてきます。

上司が指示や命令をして部下を動かすのではなく、 部下本位のマネジメントをしていくことです。

答えは上司が持っていないことを認識させ、部下が持っている情報を整理整頓させる ことで答えが導けることもあるでしょうし、解決のための情報が不足しているため、 足りない情報を集めるよう部下に促すこともあるでしょう。

答えを導くためには何が不足しているのかということ自体も上司が指示するのではなく、 部下が気づけるように仕向けていくのです。

答えに近い層である部下自ら考えることで、 答えに到達できる確実性が高まっていきます。

部下を伸ばすマネジメント

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企業活動を見ていくと、会社が小さいうちは経営 者の強い意向が会社業績にも強い影響を持ってい ますが、会社が大きくなっていくと社員一人ひと りの力がその会社業績に強い影響を持つようにな ります。

変化の激しい時代において、企業活動における問 題の答えは、立ち上がったばかりの会社を除き、 社員一人ひとりが持っているといっても過言では ありません。

企業が長くあり続けていくためには、「経営者」より「社員個人」、 「上司」より「部下」の力を伸ばし、着実に日々の問題の答えに 辿り着いていくことが必要なのです。

また、従業員満足度(ES)は企業評価の尺度の1つであり、 社員が成長できる機会を適切に提供できることは優れた会社として 評価されるための1つの条件ともいえます。

このため、部下を伸ばすマネジメントの重要性は益々高くなっています。

部下を伸ばす、成長させるマネジメント手段がコーチングです。

部下は1つ1つの問題の解決を積み重ねていくことで成長していきます。

上司はその解決のお手伝いをするために、日常業務の中でアドバイスをしたり、 時間を定めた面談の場で示唆を与えたりすることで関与しますが、 そのどれもがコーチングにあたります。

上司は部下と関わる際、部下が今はどのような問題を抱え、 答えを出すのに窮していないかを常に意識しておくことが大切です。

答えの分散化

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インターネットの普及に伴い、情報化社会が一気 に進んで世の中の様々な情報を個人が得られるよ うになってきました。

これにより「答えの分散化」 が起きています。

ここでいう分散化とは、最適な答えが見えにくく なっていることを指しています。

例えば、家電量販店で購入を決めかねている消費者は、 インターネットを通じてネットショップの方が同じ商品でも 価格が安いこと、さらにアフターサービスがよいことなどを 知っています。

また、最も欲しい商品がここにはなくても、他の店舗にいけば購入できること を知っていたりします。

ここまで情報を持った消費者に対応する販売員にとって、それでも購入しても らおうとしたら価格、性能、他社にないサービスのどれで勝負すべきなのでしょうか。

これと同様のことが上司と部下の関係でもいえます。たいていのビジネス上の 問題に対して、情報は上司よりも部下の方が詳細に持っています。

しかし、情報がありすぎて1つ1つの価値が分からず、何が答えにつながる 情報なのか見えにくいのです。

また、逆に部下が知りえる情報が細かすぎてしまうため、一人の部下だけでなく 複数の部下の情報をつなぎ合わせることで答えにつながる重要な項目が見えてくる 場合があります。

このような状況では、分散化した答えに素早く辿り着けるように組織・体制の 見直しが必要なこともあります。

情報化社会の進んだ時代における組織体制

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情報化社会の進んだ時代、分散化した答えに素早く 辿り着くために、企業はどのような組織体制である ことが望ましいのでしょうか。

「経営者」よりも「社員」、「上司」よりも「部下」 の方に必要な情報が散らばっている状況ですので、 「経営者」がダイレクトに「社員」と接することが できる、もしくは「上司」が多くの「部下」と接し やすい組織体制であることが望まれます。

このため、「階層型」の進んだ組織よりは、「フラット化」された組織の方が 有効であるといえるでしょう。

とはいえ、ビジネス上の複雑な問題に関しては、社員レベルで得た情報では 断片的であり、それらを集めただけでは素早く答えに辿り着けるとは限りません。

複数の部下に詳細な情報が散らばって蓄積されている状況においては、 上司がより多くの部下と直接コミュニケーションをとる機会を作ること が必要になります。

また、答えの分散化がより一層進んだ状態では、1つの部門だけでは完結せず、 複数の部門から専門的な社員の情報を集めることが必要な問題も多く存在します。

このため、単に「フラット化」されているだけでは足りません。

必要に応じて 複数の部門の代表者を集めた組織横断型チームを迅速に立ち上げることを可能とするなど、 柔軟に組織体制が変更できることも望まれます。

ヨコ型組織でのマネジメント

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企業が複雑な問題に対処するため、階層型の進んだ 「タテ型」の組織体制から、フラット化を進めた 「ヨコ型」の組織体制に変更していくことは既によ く見られています。

いわゆる「アメーバ型組織」や「マトリクス型組織」 などです。

また、短期間で複雑な問題に対処するために、各部署 から専門性の高い人間を集めた「プロジェクト型組織」 を構成する企業もあります。

「上司」と「部下」の関係を強くした各部門で問題を管理して対応するよりも、 各部門の「部下」の社員同士がコミュニケーションをとりやすくなることで、 分散化した答えに辿りつきやすくなるためです。

組織の種類によって特徴はそれぞれ異なりますが、これらの「ヨコ型」組織では 「上司」と「部下」の関係性が変わります。

「タテ型」では上下関係がはっきりしていますが、「ヨコ型」の組織においては 異なる機能を担います。

「部下」は専門性を発揮して個々の問題解決をはかる機能を担い、「上司」は その組織全体で成果をあげるためのマネジメント機能を担う人となります。

ですので、「上司」は自分で問題を解決するのではなく、個々の問題解決をはかる 「部下」が能力を最大限発揮できるような環境をつくっていくことが重要な仕事になります。

協調型の人間関係構築

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「タテ型」組織の上司は部下の行動に対する管理・監督 責任が重いこともあり、部下に対してはしっかりと指導 をおこなうこと、また、仕事に対する指示が明確である ことが求められました。

そのため、上司は部下に仕事を与えて進捗などを確認す る存在となり、当人同士が意識をしていなくても従属的、 支配的な人間関係になりがちでした。

「ヨコ型」組織の上司は、管理・監督責任がないわけでは ありませんが、上から下へのしっかりとした指導は必ずしも必要ありません。

上司の役割として、部下が能力発揮できない状況になっていないかを把握し、 もしそのような状況であったら原因を追求して取り除くことに気を配ればよいのです。

部下本人に原因があることもあれば、他のことが原因の場合もあります。

部下本人に原因があるケースでは、上司からの叱咤激励を含めた指導が必要になる こともありますが、他のことが原因のケースでは、そこへの働きかけを上司自身が おこなってもよいのです。

または、部下に解決可能なことであれば行動を促してもよいですが、指導は必要ありません。

このように、上司と部下の人間関係は、「ヨコ型」組織においては協働的に仕事を進める 関係になっているといえます。

命令型ではなく質問型へ

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上司と部下が協働的に仕事を進めるうえで、最も重要な コーチングスキルが質問スキルです。

仕事を進めていくうえで、上下関係がある場合は上司か ら部下への指示を「命令型」で伝えればよいのですが、 協働していくためには「質問型」で伝えていく必要があ ります。

なぜなら、上司は答えを持っていませんので、部下の中 にある答えを引き出さなければならないためです。

「質問型」で指示を伝えていくには3つの手順があります。

まず1つめは、部下の周囲に起きていることについて、しっかり傾聴します。

これにより上司と部下がお互いに共通認識を持って前提事項を整理できます。

2つめは質問です。

答えに迅速に辿りつためには何が不足していると感じているか、 視点を変えて考えることで部下自身に気づかせるような質問を投げかけていきます。

3つめは、部下自身が気づいて出してきた進め方について共感して承認することです。

もちろん、上司の観点から方向性を正すことが必要な場合もありますが、 部下の方が情報を多く持っているので、適切な質問をしていけば最適な行動は 部下自ら示してくれるようになります。

上司が出過ぎず、かといって部下に任せすぎない程度のバランス感覚が求められますが、 このような「質問型」のコーチングが最も効果的です。

個人が持つ能力を最大限引き出すコーチング

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これまで述べたように、情報化社会が進み、会社の組織 体制がヨコ型組織になっている場合、上司と部下は上下 関係というよりもチームとして結果を出すためにそれぞ れの役割を担う関係となります。

このような関係においては、部下に満足して仕事をして もらうことが上司の仕事であり、部下をいわばお客様の ような位置付けで見ることになります。

とはいえ部下にへつらう必要はありません。

部下を信頼のおける ビジネス上のパートナーとみなして協働関係を築き、チームとして 結果を出すマネジメントが重要なのです。

そのためには、やはり部下に対して命令型であってはなりません。

質問型で部下の中にある答えを導き出していくのです。

上司は部下が直面している問題について傾聴し、答えを導くための適切な質問をおこなうこと、 そして対策を部下自らに考えさせて承認し行動させること、 最後に成果をあげたら評価すること、この一連のマネジメントが 部下個人が持つ能力を最大限引き出すコーチングとなります。 部下は問題を解決して成功をおさめていくことで成長します。

その成長は周囲の人間にも見えるようになります。

チームとしての結果を出すことはもちろん大前提ですが、 上司にとっては部下をコーチングすることにより、その部下が成長した姿を 他人に認めてもらうことが何よりも成功といえるでしょう。